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研究開発グループ シニアリサーチャ
画像認識

佐藤 育郎

Ikuro Sato

PROFILE

2008年入社
米国ローレンスバークレー国立研究所 理論物理研究

ここが一番、自分の数理的な能力を活かせる場だと感じたから

2008年からディープラーニングの研究に着手していたという佐藤さん。計算資源とデータが潤沢になることで多様な課題が解決できるようになったディープラーニングの「限界」を超えるべく研究に取り組んでいます。現在の認識技術とその限界、そしてシビアな認識性能が要求される自動車への応用について、佐藤さんに伺いました。

米国で研鑚した数理的な能力を活かせる場

デンソーアイティーラボラトリ(以下、ITラボ)に入社したのは2008年のことです。アメリカで理論物理学の博士号を取得して、そのままアメリカの国立研究所でポスドクを勤めた後でした。入社した理由は、ここが一番、自分の数理的な能力を活かせる場だと感じたからです。一般に、企業の研究所は事業ニーズに沿ったスピーディーな研究成果を重視します。ITラボも例外ではありませんが、より原理原則から明らかにしていく学術的正当性を尊ぶ社風を感じました。本来情報分野の専門家ではない私が採用されたのも、基礎寄りの部分から問題を設定し解決していくポテンシャルが評価されたためと思います。

入社してから現在まで、主に機械学習を使った画像認識の研究に取り組んでいます。ディープラーニングが世間的に話題になったのは2014年頃からですが、私は2008年からその研究を行っていました。国内では早い段階での着手だったと思います。今思えば当時は非力な計算機で学習が終わるのを辛抱強く待っていたものでしたが、今ではスパコンを使った大規模並列処理により、当時のものよりもはるかに大きなデータセットを扱えるようにまでなりました。物理学をやっていた頃は全く想像できませんでしたが、とても面白いものに巡り合えたと感じています。

今の認識技術の「限界」を超える

現在のテーマは、車載カメラで撮影した画像に映っている物を機械的に認識させることです。車両、歩行者、標識、信号機、白線、ペイント、中央分離帯、歩道、建物などといった属性に加え、自車に対するそれらの位置関係を把握することは、自動運転や運転支援の重要な要素技術です。

「認識」という言葉を使いましたが、実はこれは大変難しい問題で、何をどうすれば認識ができるようになるのか、人類はまだよく知りません。1969年に人類は月面に降り立ったわけですが、そこから約半世紀が過ぎた現在であっても庭で雑草を抜いてくれるロボットは誕生していない。草を「認識する」、という一見簡単そうなことが、機械にとってはとてつもなく難問なのです。

現在の認識技術が扱えるのは、数ある認識問題のごく一部です。最も成功しているのはカテゴリ数の決まった分類問題で、これは理想的入出力の組をたくさん集めて学習させることで初めて可能になります。先の例で言うならば、ありとあらゆる植物の画像を入手し雑草/非雑草ラベルを付与し学習する、ということになります。不可能でないにしても、これが真に賢明なアプローチでないことは、専門外の人でも直感できるのではないかと思います。

今のディープニューラルネットワーク(DNN)には、画像に写っている歩行者を検出するような問題では、既に実用的な性能があります。しかしながら、現在の認識技術は完全自動運転と言われるレベル5の実現に不十分であることも、また確かです。このギャップをいかに埋めていくかを考え、部分的にでも手法として具現化していくことが私の役割と考えています。

現段階の研究として、DNNの汎化に関する原理解明に光を当てていきたいと考えています。現在のDNNの成功は、理論よりも経験則によっています。料理に例えると、「ここで何グラムの味噌を加えればコクが出る」というようなノウハウがたくさんあるわけです。ですが、DNNが高い認識力を獲得する以上、その背景には何らか数理的なメカニズムがあるはずです。まずはそれを明らかにしたい。その上で「真に懸命なアプローチ」に近づきたいと思っています。

自由なのに会社に集まるのは、議論ができるから

平日は、子どもを保育園に送って家で簡単な作業をしてから10時~11時の間に出勤し、20時~21時頃退社します。今年から導入整備された在宅勤務制度もよく利用しています。子育て支援の一環でもあり、育児と家事により参加しやすくなりました。

会社にいる時は、なるべく同僚とディスカッションするようにしています。半日ぐらいずっと議論していることもあります。ITラボは裁量労働ですから、自席に長時間座っている必要はありません。にもかかわらず会社に集まるのは、議論ができるからです。思いついたアイデアを人に説明することで逆に自分がより深い理解に到達するというのは、研究をしたことのある人なら誰しも経験のあることでしょう。議論の相手が抱く疑問やちょっとした引っ掛かりが、思わぬ発展に変貌することもありますし、新規テーマの立案に繋がることもあります。また、何より、研究の議論はとても楽しいものです。最近、ビール(会社持ち!)を片手に心ゆくまで自由に議論する会が週一で開催されるようになり、ますます賑やかさが増すようになりました。

入社前後で印象が変わったことといえば、研究テーマの決め方です。入社前にはある程度トップダウンかと思っていたのですが、実際はボトムアップで、研究者自身がやりたい研究内容を提案できます。むしろ、提案を要求されるといってもよいでしょう。私たちはそこで、研究における仮説は何で、それをどう実証し、その結果がどうクルマの未来に役立っていくかを、論理的に説明します。上下の垣根が低く、フランクに提案がしやすい、いい空気だと思います。

この会社を一言で言えば「自分を出せる会社」とでもいえるでしょうか。研究テーマの決め方にも表れていますし、働き方も自由だし、勉強が必要なら業務として取り組めます。書籍の出版、社外での講演、学会活動など、本人が実現したいことは原則的にエンカレッジされます。自分の学術的な知識や技能を社会に役立てたいと考えている人には、働きがいのある会社だと思います。

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