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研究開発グループ リサーチャ
画像認識

石川 康太

Kohta Ishikawa

PROFILE

2012年入社
ソフトウェア開発、数値最適化、統計解析などの技術開発

数学的裏付けで機械学習に革命を。物理屋ならではの強みを操るリサーチャ

入社以来、画像処理や信号処理のための機械学習の研究に取り組んでいる石川さん。オフではボルダリングやサイクリングなど、スポーツ趣味の幅を続々と広げています。知力と体力の向上に余念がない石川さんに、デンソーアイティーラボラトリ(以下、ITラボ)の魅力や働き方について伺いました。

大学の研究室のような自由さに惹かれた

大学院時代の研究テーマはカーボンナノチューブの物性についてでした。
カーボンナノチューブは六角形状に並んだ炭素原子のシートが丸まってできる物質です。現在ではその特異な物性を活かした様々な応用が考えられているもので、当時はその電気伝導や磁場に対する反応、電子格子相互作用の効果などの基本的な物性を理論的に検証していました。

大学院卒業後は、金融系の会社で証券アナリストの仕事に就きました。市場や株価のデータなど幅広い分析が求められる仕事に「現象をモデル化し原因や意味合いを探す」という物理的な視点が活用できるのではないかと感じました。2年ほど勤めましたが、やはり理系の素養を活かした仕事がしたいと考えるようになり転職することにしました。

次に選んだのは、科学技術系の計算に必要なソフトウェアやソリューションを開発する企業でした。工業製品の開発に必要な最適化の問題やシミュレーションに取り組む日々は、大学院時代の物性理論の知見が活かせましたし、自分なりに興味のある分野を勉強する時間も取れて充実していましたね。

そうした仕事をしていくうちに、受託開発のようなタイプの仕事だけでなく、研究の仕事に携わりたいという思いが強くなっていきました。そうして30歳を迎えることを機に、2度目の転職を決意。研究の仕事を探し始めました。何社か受けましたが、ITラボの「自主的にテーマを決定し、研究していく」という大学の研究室のような自由さが入社の決め手でした。

新しい研究の潮流にチャレンジ

入社以来、画像やLIDARによる物体認識などのコンピュータビジョンの技術や、計算量削減のための代数的なハッシング手法の研究などを行ってきました。自分の強みを活かした価値を提供できる方向性を模索していった結果、機械学習そのものを軸にして信号処理周りの研究を行うようになってきています。

また、2012年頃からのコンピュータビジョン分野を震源としたディープニューラルネットワークによる大幅なモデル性能の改善に沿って、研究もそちらの方向にシフトしていきました。画像のような空間的な信号に対しては、CNN (Convolutional Neural Network) と呼ばれる構造が極めて有効であることが分かっています。これはエッジなどの局所的な画像特徴を平行移動不変な形で捉え、その複雑な組み合わせを高次レイヤーで獲得していくというもので、人間の視覚システムの構造を部分的に模しているといわれています。

CNNは非常に強力な構造ですが、映像のような時空間信号を扱うには必ずしも適切でない場合もあります。空間と時間は本質的に意味の異なる次元であるにも関わらず、単純なCNNでは同等に扱ってしまうためではないかと思います。Recurrent Neural Network (RNN) のような時間方向を扱うためのモデルもありますが、Convolutionalな構造でどのように時間を扱えるかに最近は着目しています。

異分野・異業種を知っている価値を示したい

今でこそ、こうして研究内容を熱く語れるようになりましたが、入社当時は右も左も分からない状態でのスタートでした。前職の頃から画像認識の勉強をしていたとはいえ、工学ではなく物理出身。工学の研究は人類が育ててきた大きな樹を剪定したり新しい枝を生やしたりするようなもので、人類に関係なく存在する自然を調べていく物理学のような分野とは根本的に取り組み方が異なります。根本に基本法則が存在するというよりは、人々がどのような工学的な問題に注目しそれを解決しようとしてきたかの積み重ね自体が根幹になっているように思います。

特にディープニューラルネットワークが注目されるようになってからは、無数の新しい枝が急速に生えてきているような状態で、その中から最終的に残るものや実問題に利用可能な方向性を基本法則のような拠り所なしに見極めるセンスが必要になっているように感じています。そのような考え方を実践する中で、物理学のような分野出身の人間として原理原則を重視することの価値も示し、その視点からの見極めが方向性を見極める拠り所の一つになると考えています。ただ工学と物理学、私の中でのそのバランスには今でも苦労していますね。

仲間との雑談も議論のうち

とはいえ、ITラボの環境に助けられている部分もあります。皆、知的好奇心の塊のような同僚ばかりで、互いに切磋琢磨し合えるんです。チームの垣根などはほとんど関係なく自由に議論をしていますし、週一程度の勉強会なども行っています。内容も担当の研究内容に関わらず、それぞれが興味ある論文やトピックを持ち寄って測度論的確率論や関数解析などのかなり基礎的な数学の話になることもあります。

会社の至る所にあるホワイトボードはいつも活用しています。やはりデスクだけだと視野が狭くなりがちですし、スペースの広さは思考に影響します。壁一面で計算できるかと思うと、アイディアもどんどん湧いてきます。通りがかりに声を掛け合うことも多く、雑談のような気軽さで議論に発展することも日常茶飯事。飲み会の時にお酒を片手に議論、なんていうこともよくあります。

研究者としての下地を固めた海外留学制度

ITラボでは海外の研究機関への留学枠を設けており、期間は2年間程度、いつも誰かが行っている状態になっています。幸運にも私は入社4年目に選ばれました。受け入れ先は自由に選べたので、自ら受け入れ先を探し、研究分野も近いUC BerkeleyのBruno Olshausen先生の研究室に入りました。

留学中はそれまで以上に研究に没頭できたので、自らの研究者としてのスタンスを探ることにしました。学問上の意味や貢献を非常に重視するアメリカの大学文化を学ぶことで、実応用が視野に入る企業研究においてもより本質的な貢献を考えることが可能なのだということを認識することができ、現在の研究活動への取り組みにも大いに活かすことができています。

ボルダリングで気分転換

多くの研究者がそうだと思うのですが、研究の基礎は身体。「健全なる魂は健全なる身体に宿れかし」というと大袈裟ですが、体力は大切です。裁量労働ということもあり、就業時間に決まりはありませんし、忙しい時は朝早く仕事を始めて午後9時、10時までにどうにか区切りを付けることもあります。成果を残すということが何よりも求められる仕事ですから。

そんな時、私はよくボルダリングに向かいます。元々友人に誘われて始めた趣味でしたが、今では週に2回は行くほどです。どんなに頭の中が数式やコードで埋め尽くされていても、ひとたび壁を登り始めてしまえば目の前の凹凸に集中していったん放念できます。身体を動かして頭を空っぽにすれば快眠は約束されたようなものです。気持ちのいい朝を迎えて、また研究に向かう気力が生まれます。体力もどんどんついていきますし、もはや欠かせない習慣ですね。

物理屋の考え方を活かす

近年のディープニューラルネットワーク周りの研究の発展は、伝統的な物理学のような要素還元的方法の限界を示しているのかもしれません。工学的な応用という意味では性能が高ければ十分であって、機械学習で処理できないところは運用でカバーしていくことで価値を担保するということもあります。しかし、現在のような様々な新しいモデルが次々と試され、ともすれば混沌としている状況だからこそ、数学的に裏付けられた設計指針が必要とされるのではとも思っています。物理学の方法論がそのまま役に立つかは分かりませんが、ニューラルネットワークやそれによって解かれつつある様々な問題を現象として理解することで、その一助になれればと考えています。

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