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研究開発グループ シニアリサーチャ
画像認識

安倍 満

Mitsuru Ambai

PROFILE

2007年入社
慶應義塾大学大学院博士課程 画像認識の研究

基礎研究を実用化に繋げることが研究者の醍醐味

高精度な画像認識を少ない計算量で実現する技術の研究に取り組む安倍さん。入社当初から、国内外の学会での論文発表をはじめ、積極的に情報発信を続けています。デンソーアイティーラボラトリ(以下、ITラボ)を代表する研究者の一人・安倍さんに、アカデミックな世界を追求しながら研究の実用化を目指すことの面白さについて伺いました。

画像認識研究を実用化に繋げたい

大学時代、学部・修士・博士課程と、一貫して画像認識の研究に取り組んできました。博士号を取得したのは、ITS(高度道路交通システム)に関する研究で、中でも僕が手がけていたのは、道路側に設置したカメラでクルマの交通流量を計測するための研究でした。様々な気象変化がある中で、ITSではできるだけ正しく計測することが求められるため、画像認識アルゴリズムにロバスト性を付加させることが研究の主眼です。

ITラボに入社した現在も画像認識の研究を続けていますが、実は大学での研究内容そのものを企業に入ってからも継続したいという意思はありませんでした。むしろ、アカデミックな場で研究してきた画像認識の基礎技術を、今度は社会の中へ実用化していくための研究に取り組みたい。そのため大学での研究者ではなく、企業の研究者という道を選んだわけです。

研究成果は、実用の場面で利用されることで初めて価値がある

僕が現在担当している研究テーマをもう少し紹介します。一般的なところでいうと「自動運転」という大きな分野があって、認識の対象をさらに拡大するための研究が進められています。すると当然のように演算量が増えていくことになる。では、その演算をいかに減らすか。言い換えると、膨大な演算の過程で消費される電力、発生する熱をいかに減らすか。それをアルゴリズムの段階で実現することを目的とした研究です。

そして、この研究がいずれ、アルゴリズムに基づいたハードウェア作りに繋がり、競争力を持った商品になっていけば、と。それが企業の研究者としての、ありたい姿です。僕たちの研究成果は、実用の場面で利用されることで初めて価値があるものになると考えています。

むろん、これまでの研究成果の中から実用化に結びついた物は少なくありません。デンソーグループの製品群はクルマの部品だけではない様々な分野があり、そこには画像認識に関する研究課題があります。例えば、工場の製造ラインとかロボットアームとか。実用化とは少し異なりますが、将棋の電王戦でプロ棋士相手に駒を指す将棋ロボットにも、僕が関わった画像認識エンジンが使われていたようです。

「研究のシーズ」と「会社のニーズ」の接点を探す

もっとも、今でこそ実用化に向けた研究がメインですが、入社当初はデンソーのニーズが理解し切れていないこともあり、まさに試行錯誤の連続でした。

ITラボでは、自分で研究テーマを提案することが大切にされています。最初の数年は、色んな研究テーマを提案し、研究を行ったら発表するということを繰り返していました。また、直接的に製品に貢献できない場合でも、研究の成果を論文の形にして、しっかり情報発信していました。そうすることで、だんだんと本社の人たちとも付き合いができて、徐々にニーズへの理解が深まっていきました。そういう活動を通じて初めて、僕の研究の中にあるシーズと、デンソーのニーズがうまく噛み合う研究ができるようになってきたと思います。

研究成果は論文に纏め、実用化に向けてブラッシュアップ

研究成果は、論文に纏めてきちんと発表をすると、それを見た人がアクセスしてきてくれて、それが仕事に繋がることがあります。プレゼンテーションすることは研究者にとって非常に大事で、それは今も続けています。

中でも個人的に非常に思い入れがあるのは、2011年に同僚の吉田と連名で「対応点探索」に関する論文をある国際会議で発表したことです。

対応点探索とは、同じ物体を異なる角度から撮影した2枚の画像を分析して、物体上の同じ点を指している点をそれぞれの画像から見つけ出すという技術です。これは画像認識ではとても重要なことである反面、その処理が難しいことが課題でした。2004年には、この課題を解決する「SIFT(Scale Invariant Feature Transform)特徴量」の記念碑的な研究が発表されたのですが、計算量が膨大でメモリをかなり使うという問題がありました。その解決策を纏めた論文を国際会議に出したわけです。

この論文をきっかけに、僕自身やITラボの存在を多くの人に知ってもらえた一方、デンソー本社の人もその発表を見て様々な相談を持ちかけてくれるようになりました。

発表をすることで、研究内容が多くの人の目に触れます。そして、人の目に触れてこそ、研究が活きてくる。僕は企業の研究者として、その基礎的な研究成果をきちんとブラッシュアップして、実用化を見越した形でデンソー本社やグループ会社に提案していくことが責務ではないかと考えています。だから、論文を書いて外部に情報発信していくことを続ける一方、それを会社の中でしっかり実用化していくことも目指していく、この2つを両立させていくことに今最も力を注いでいますし、また一番の面白いところだと思います。

そうした発表の場は、国内外の学会だけではありません。ITラボの中にもたくさんあります。その一つが「ITラボ展」です。我々ITラボが、デンソーの社員や外部の方々を呼んで、年に2回開催している展示会なのですが、ここで我々の研究成果を発表するだけではなく、実際の技術課題やニーズを聞くことができるという、とても貴重で重要な場になっています。

ITラボの魅力は、こうした研究発表を会社として奨励してくれるところにもあるし、何よりも、社内外の研究者と議論したり、実用化を行うデンソー本社やグループ会社の人とコミュニケーションができたりするというところにあると思います。研究のアイデアというのは、日々論文を読んだり、人と話をしたり、色んな情報が入ってくるプロセスの中で思い付いたりするもの。そして、それらを人に聞いてもらってアイデアを深めていくことが大切です。これがやりやすいITラボは、研究者として、とても良い環境だと思っています。

研究ビジョンを持っている人と働きたい

ITラボでは、各個人に対して研究テーマが与えられるということが、あまりありません。むしろ、自分からテーマを作り出していくところです。

だから、大切なのは、まず何をやりたいかビジョンを持っていることだと思います。もちろん、そこには生みの苦しみがありますが。研究テーマというのは、人が発表しているのを見て、これは良くないなと指摘するのは簡単ですが、誰から見ても納得できるようなストーリーを自ら語るのはすごく難しい。でも、そういうストーリーを語れるぐらいに、はっきりしたビジョンを持っている方がいいと思います。

そして、技術的に深い興味があって先端の議論がしっかりとできるだけではなく、きちんとデンソー本社の課題に向き合って、実用化に繋げる仕事にも意欲を持ってる人がいいですね。やはりITラボにいる面白さというのは、実際の課題に触れる機会がたくさんあるという点にありますから。願わくはアカデミックな研究だけではなく、そこで培った技術をきちんと現場に持っていく意欲がある人、そういう人と是非一緒に仕事をしたいですね。

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